最初の事業所を終えて
太田 お疲れ様です。
この3ヶ月の率直な感想を聞かせてください。
高谷 えっと、まあ、最初はもうほんまにしんどかったです…。でも、終わりにかけて、ここに来て良かったなぁって思えるようになってきたというか…そうですね、成長できたんじゃないかなって思います。
太田 それはお疲れ様でした…。その”ほんまにしんどかった”部分がどうしんどかったか具体的に聞いてもいいですか。
高谷 はい。高校からアルバイトをしてたんですけど、まずその経験は役に立たない。だから、ほんまに1から仕事の流れを掴むというか。ほんで、見て盗む?というか、仕事の覚え方ですかね。実際にやってみて感じるんですけど、言葉で説明が出来へんような作業ばっかりやし、だからほんまに慣れると言うか…。
太田 うんうん。
高谷 あと、自然を相手にしているので、何かしないとと思って取った行動が命に関わるかもしれないと思うと余計に慎重になってしまって、最初の頃は突っ立ってることしかできなくて申し訳なくて、それがしんどかったです。
太田 そういったことを感じながら、それでも最終的には来て良かったと思えた、その部分も具体的に聞いていいですか。
高谷 えっと、なんて言えばいいんですかね。ん〜なんとなくですが仕事の流れを覚えてきて。ただ、自然を相手にしてるので流れ通りに行くことのほうが少ないんですけど。それでもやれそうなことを見つけられるようになってから、ちょっとずつしんどいなって思うことが減ってきたというか。
太田 うんうん。
高谷 ちょっとずつできる事が増えたり、ここはできそうかなっていうのがわかってくるとその仕事の見え方が変わってきて、突っ立ってる時間があまりなくなって、しんどいと思うところも少なくなってきて。奈良に住んでたときには想像もつかない知らない世界に飛び込んで、それでも少しずつ業務ができるようになったのが自分にとって一つの自信になったし、そういう面でやれて良かったなあって思います。
太田 うんうん、素敵です。
高谷 あと、私は人見知りで喋るのが苦手なんですけど、魚を買いに来る方とか漁協の方とか運送の方とか、いろんな人と関われるようになって、今日もその運送の方にバレーしようって誘ってもらって。
太田 へえ、すごい!
高谷 そういう暖かい職場で働けて、その職場の人だけじゃなくて、そこからさらにいろんな人と繋がれたと言うか…そういう、なんて言うんですかね、繋がり方が良いと思いました。
太田 繋がりもだけど、繋がり方について考えるの、いいね。
高谷 そういうのを感じることができたので、働けて良かったなあって思います。
太田 素敵です。
高谷 良かったです。
漁師をしていて、びっくりしたこと
太田 では、この3ヶ月で一番びっくりした事、感動した事はなんですか?
高谷 びっくりした事は…なんやろ…いっぱいあるんですけど。今まで死んでる魚しかみたことがなかったんですけど、泳いでいる魚を見た時は感動しました。
太田 そうなんだ。
高谷 泳いでるイカなんか、可愛いし。
太田 うん。それに綺麗だよね。
高谷 はい。あと3メートルの泳いでるカジキマグロを見れることなんて人生でなかなかないと思うし、そういう意味では自然を感じれた。それが結果的に食べ物に対しての考え方っていうか、当たり前のように食べてた魚を獲ってる人の存在を感じれたというか。
太田 うんうん。
高谷 最初の頃、選別台に並べられてる魚を見るのが辛いなって思ったんですけど、でもその仕事も誰かがやってくれてるから、私たちが当たり前のように魚を食べててんやなぁとは思いました。
太田 なんだっけ、集合体恐怖症だっけ…?
高谷 あぁ、それもあります(笑)魚の目が集合体に見えてきて最初はわざわざ伏せて選別してたんですけど、でもそれも今となっては全然見れるようになりました。
太田 まあ、あれなんだね、慣れるんだね。
高谷 慣れますね。慣れていいのかはわかんないんですけど…。
太田 うん。魚は食べるようになりましたか?
高谷 そうですね、こっちにきて刺身を食べれるようになりました。漁師さん達は島の人たちに対していろんな魚を食べてほしいって思ってて、それで私もたくさん魚いただいて食べ方を教えてもらったりして、ちょっとずつ自分でも捌いて食べるようになりました。これまであんまり自分から魚を食べたいなって思う事はなかったんですけど、この3ヶ月で自然と食べるようになってたなぁっていう。
漁師をしていて、一番好きになった魚
太田 一番好きな魚を教えてください。
高谷 一番好きな魚…ん〜名前が出てこない…!!
太田 ええ、なんで(笑)
高谷 あ!オコゼ!
太田 あぁ、美味しいねオコゼ。え、自分で捌けるの?すごい!
高谷 いやオコゼは大家さんの所に持って行って、捌いてもらいました。
太田 (苦笑)
高谷 でも実は私まだ刺身を食べれるようになったけど美味しいとは思わなかったんですよ。今までは食べても飲み込めなくて出してたぐらい、それぐらい苦手だったんですけど、それが食べれるようになったっていうだけでも進歩なんですけど、まだ美味しいって思える段階にはいってなくて。でもオコゼは美味しいって思いました。
太田 オコゼのポテンシャルすげえ。たくさん獲れる魚じゃないんだよね。
高谷 高級品らしいですね。
3ヶ月前の自分に伝えたいこと
太田 3ヶ月前の高谷さん自身に伝えたい事、おすすめポイント、ここは気をつけろポイントはありますか?
高谷 ん〜と、まあそこまで『気にしなくていいよ』とは言いたいです。
太田 もう少し具体的にお願いします。
高谷 仕事を始めた頃の突っ立ってる時期がほんまに耐えられへんかったというか、周りが忙しそうにしてるのに自分だけが突っ立ってて申し訳なくて。でも漁師さんも前に働いてた雪野さんも最初はそんなもんやって言ってたし、分かってるつもりではいたんですけど、その時はしんどいじゃないですかやっぱり。だからまあ気にすんなよって言いたいですね、そういう意味で。
太田 うんうん。あと、もう一個だけ聞いていい?
高谷 はい。
太田 飯古定置で働いて、どんなことが習得できましたか?なんでもいいっていったらあれだけど、魚の種類は嫌でも覚えるぞとかでも。
高谷 魚の種類や網の事はちょっと奥深すぎて、3ヶ月では分かったとは言えないです、正直。色々教えてもらうんですけど、知れば知るほど、知らないことを知る、みたいな。漁師っていう仕事を分かったとかじゃなくて、臨機応変さとか見て覚える力とか、出来ない中でどうにかする力っていうの、3ヶ月前と比べるとやっぱ成長できたかなって思います。
太田 今の聞いて、純粋にすごいと思いました。
高谷 ありがとうございます。あ、姉さん(※)との話は聞かなくていいですか?(笑)
※姉さん:山郷さんのあだ名
太田 ではぜひ聞かせてください(笑)
お姉さんと一緒
太田 高谷さんにとって、山郷さんはどんな存在でしたか?
高谷 とにかく姉さん、魚が好きやないですか。
太田 魚や漁への気持ちが前面に溢れ出てるね。
高谷 私はもともと魚に興味があって漁師をやりたいわけではないので、それに比べると探究心がすごくて。年齢も5〜6ぐらい上やし、頭も良いし。私より先に覚えていろいろやろうとしてる姿を見て、ここはやっていいんやって示してくれるくれる人がいたからやりやすかった。
太田 身近なお手本がいたんだね。
高谷 はい。どう動いていいかわからないときに、姉さんがいたおかげで早く流れを掴むことができたと思うから、一緒に働けて良かったなあって思いますね。
太田 さすがだし、いい関係性です。それに魚道を極めるつもりなんですよね、あのお方は。この本を読んでいると伺いました。
高谷 いやでも、持って帰った魚はあげまくってますけどね(笑)
太田 ええ、せっかく持って帰るのに。
高谷 持って帰って、近所の方にあげたり、家族に送ったり…。
太田 自分の為ではなく、人のため。それはそれで深い。
高谷 魚道とは、なんなんですかね?(笑)
太田 今度、山郷さんにも聞いてみましょう。