AMU JOURNAL

はたらく人の声

AMU WORKERとしてEntôで働く。この形でしか見えなかったことが、たくさんありました。

2021.10.10

書いた人 ― 大森 玄己
はたらき先 ― Entô

この3ヶ月どんな仕事をしていましたか

2021年7月〜9月の3ヶ月間、「泊まれるジオパーク拠点」として新たにオープンしたEntôという施設で勤務していました。主に担当したのはダイニングとクリンネス(清掃)で、お客様に朝食をお出ししたり、お部屋の清掃をしたり、Entôの中でもホテル機能に携わる業務を中心に担当しました。

特に発見があったのはクリンネスで、シーツ類のクリーニングから大浴場の清掃まで幅広く関わることができ、この仕事がどれだけ滞在体験を左右するのか、身をもって体感することができました。

Entôでの勤務中は社員の山口さんと笠原さんがメンターを担当してくださり、相談役として支えてくださいました。限られた期間で何ができるか、常に不安や焦りは感じていましたが、皆さんに支えて頂いてなんとか最後までやり切れたかな、という感じです。とりあえずほっとしています。

特に力を入れて取り組んだことはなんですか

ダイニングの朝食業務です。最初のひと月は仕事を覚えるので精一杯で、周りの動きにまで気が回らない自分にふがいなさを感じる日も多かったですね。

そうして何度も失敗を重ねながら徐々に現場に慣れてきた頃、朝食業務の主担当の一人として仕事を任せて頂けることになりました。

その頃のダイニングはまだまだ手探り状態で、担当者毎に習熟度やサービス内容のばらつきがありました。山口さんらと意見を交わす中で、担当者が変わっても一定のサービスを維持できる体制を整える必要があると感じ、マニュアル整備を提案して取り組み始めました。

しかし進めるうちに、今回のマニュアル整備にはEntô特有の難しさがあることに気がつきました。それは、「コンセプトである“Honest & Seamless”がどのような状態を指すのか、誰も明確な答えを持っていない」と言うこと。

例えば、お客様のご要望にどこまで応え、どこからお断りするのか。積極的な声かけがいいのか、一歩引く接客がいいのか。何が“Honest & Seamless”を体現するのかについて一人ひとり考えが異なり、それがサービス内容のばらつきにもつながっていたんです。

実体の掴めないコンセプトをどのように言語化し、具体的にマニュアルに落とし込むべきか、頭を悩ます日々が続きました。そんな時参考になったのは、一人のお客様からアンケートにお寄せ頂いたご意見でした。

「ダイニングのスタッフがおどおどしていて、食事に集中できなかった。」

慣れない業務に戸惑う従業員の不安が、お客様にまで伝わってしまったのだと思います。その時、コンセプトの定義に囚われ過ぎて、目の前のお客様や従業員の姿が見えなくなっていたことに気がつきました。

「“Honest & Seamless”がどんな状態を指すにせよ、重要なのは、お客様に安心して滞在をお楽しみいただける環境を整えること。そのためにはまず最低限のサービス内容を定め、習熟度のムラをなくして従業員の不安を取り除くことが最優先になる。それができて初めて、個々の持ち味を活かした“Honest & Seamless”なサービスを生み出していくことができるのではないか。」

全く異なる角度から問題を捉え直せたことで、一気に靄が晴れた瞬間でした。この気づきを得てから、「画一的な規律」としてではなく、「従業員の拠り所となる指標」としてマニュアルを整備しようと方向性が定まっていきました。また、僕が去った後でも状況に応じ更新し続けてもらえるように、クラウド上で整備を進めるという方針も定まりました。

この時ありがたかったのは、ダイニングだけでなくクリンネスの皆さんもマニュアルの意義を理解してくださり、可能な限りマニュアル整備に時間をかけられるよう僕のシフトを調整してくださったことです。特にこの点に関しては、直接クリンネスの担当者に打診してくださった笠原さんの存在が大きかったです。こうして多くの方々の支えを得て、少しずつマニュアルを形にしていくことができました。

レンガ積みの寓話をヒントに、マニュアルとコンセプト体現の繋がりを強調した図を朝食マニュアル冒頭に掲載した。

マニュアル完成の道筋が見え始めた頃、続いて取り組んだのは「朝食廃棄データの収集」でした。

山口さん達からは、「閑散期となる秋頃までを目処にマニュアルを浸透させ、その後はサービス改善の段階に移っていきたい。」と言う話を聞いていました。個人的に朝食の食べ残しが気になっていたこともあり、自分の任期後に来る改善段階で使ってもらえる素材として、朝食廃棄データを集めることにしたんです。

具体的には、日々どれくらいの飲み物や食べ物が消費/廃棄されているのか、計測した数値を備忘メモや写真と併せてExcelに残していきました。

データや担当者のメモが残っていれば、改善案を考える際の客観的根拠になり、よりお客様のご滞在状況に即したサービスを考案することができるのではないかと考えたからです。また、日々連絡を取り合うSlack上では情報が流れていってしまうため、情報を蓄積し、振り返ることのできるプラットフォームも必要なのではないか、と考えていました。

もちろん、取得したデータから切り取れる情報には限りがあり、残したデータだけを基準にすることは、却ってお客様の要望を見えなくする可能性もあります。

それでも少しずつ、データ収集の成果が見える場面も出てきました。例えばある時、連泊のお客様の初日の残し状況を確認し、翌日お客様にお伺いの上、減量での提供を行なったことがありました。お客様のニーズにあったサービスを提供しつつ、同時に廃棄も減らすことができたのは、一つの成功体験になりました。

さらに、続けている内に協力を申し出てくれる同僚が現れたり、僕自身、自宅でコンポストを始めるきっかけができたり、いくつか嬉しいことも続きました。

一方で、対応するお客様の人数が多い場合、サービスの質を落とさずに、正確に数を取り続けることが難しいという現実もわかってきました。また、データ収集はあくまでサービス改善のための選択肢の一つであり、ダイニング全体の円滑な情報共有の方が、より喫緊の課題であることも見えてきました。

ダイニング担当者との最後の打ち合わせでは、これらの成果や課題を加味しながら集めたデータについて報告し、一層の改善に向けた意見交換をすることができました。

改めて振り返ると、今回のデータ収集はダイニングの皆さんの後押しなしには実現できなかったと思います。データを集めてみるという“実験”を受け入れ、フォローしてくださった皆さんには感謝しかないです。

仕事への取り組み方に変化はありましたか

俯瞰して仕組み全体を捉える視点と、身の丈でできる小さな一歩を考える視点。今回の3ヶ月では、その両方を活かして自分なりに仕事を組み上げる経験ができたと思います。

今だけでなく、将来にわたって使いやすいか。自分だけでなく、他の人にも使いやすいか。そんな風に、マニュアル整備の際には、時間・空間的に視野を広げながら取り組んでいくことを特に意識していました。

一方データ収集の際に意識していたのは、手の届く範囲から始めること。これは、朝食の廃棄について事務局長の太田さんに相談した際、「まずは個人的に量を測ることから始めてみたら?」と提案してもらえたことがきっかけでした。

どうやって大きな成果を出すかばかり考えていた中で、そもそも今できることは何か、という等身大の視点で考え直すことができたんです。また前述の通り、秋頃のサービス改善につながるかもしれない、という思いもあり、ダイニングの皆さんにも意図を伝えた上で、業務に支障のない範囲で少しずつデータを集め始めました。形式も全く手探りで、完璧には程遠い代物でしたが、恐る恐る山口さんに見せた時、「これは大きな価値になる。」と言っていただけた時は本当に嬉しかったです。

また話は逸れますが、現場であるEntôだけでなく、組合の事務局にアクセスしやすい状況だったことも、今回の取り組みを進める上では非常に重要でした。現場で見つけた課題を事務局でほぐし、体制を整えて改めて現場に赴く。このバランスが取れるところがAMU WORKERとして色んな現場に派遣される利点の一つだと思います。

こうして取り組んだ2つのプロジェクトを振り返って見ると、マニュアルが、最低限のサービスを形作る「0→1」の仕事だとすれば、更なる改善の種となるデータ収集は「1→10」の仕事だったのかな、と思っています。しかし、立ち上がったばかりのEntôにおいて、まだ手が回っていない「マイナス→0」の仕事もいくつかあったように思います。その一つが、従業員のフォローアップ業務でした。

多くの短期従業員が運営を支えるEntôにおいて、職場に馴染むための導入研修や、経営陣とのコミュニケーションの機会はまだまだ少なく、実際、仕事の意味や方向性を見失い体調を崩す同僚たちも何人か出てきていました。Entô全体で一つのコンセプトを体現していこうと進んでいる一方、情報共有の抜け漏れや、フォロー体制のムラも見られる。

「このような状態では、僕が残したマニュアルやデータは効率化のツール以上の機能は果たせないのでは?」

任期の終わりが近づくにつれ、漠然とした不安が大きくなっていきました。このままではいけないと思い、最終日にはEntôを運営する株式会社海士の社長の青山さんと直接お話をし、3ヶ月間の感謝と共に現場からの率直なフィードバックを伝えさせていただきました。

「短期か正規かに関わらず、全員が戦力として頑張っている今のEntôにおいて、働き手に対するフォロー体制には、まだ改善の余地があるのではないか。」

「従業員に対するケアが行き届いた環境下でこそ、マニュアルやデータは付加価値を高めるツールとして活きるのではないか。」

今思えばかなり一方的だったと思いますが、青山さんは突然の連絡にも関わらず忙しい中で時間を作ってくださり、一つひとつの提案を頷きながら聞いてくださいました。また、離島でのビジネスが抱える構造的な難しさや、一部の人に大きな責任が偏ってしまっている現状など、多くの点で同じ認識を持っていることを確認できたことも、大きな収穫でした。

一方で、海士町で事業経営を行う多くの方達がそれぞれに工夫を重ね、事業の推進に取り組まれていることを伺いながら、自分に見えている世界の狭さも痛感しました。

「何故働くのか」

「どのように働くのか」

Entôでの3ヶ月は、仕事の意味を根源から問い続けることのできた、非常に濃い3ヶ月となりました。

この記事のはたらき先

Entô について

書いた人

大森 玄己

兵庫県出身。東京の海運会社で3年半ほど主に人事として仕事をしながら、半年間だけNPOの活動に参加していました。

大森 玄己 の他の記事